Q.
 具体的遺産分割方法には、どのようなものがありますか?


A.
 遺産の分割については、民法は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状況及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをし(民法第906条)、何時でも、その協議で、遺産の分割をすることができるとしている(民法第908条)。これを、協議分割と言います。

 協議分割の方法としての具体的遺産分割方法としては、現物分割、換価分割(遺産を現金化する方法)のほか、共有とする分割、債務負担による分割、用益権の設定などの分割方法がある。

1 現物分割
 現物をもって、分割する方法である。これが、遺産分割の原則である。遺産が僅かで、しかも相続人に債務負担の資力がないときには、たとえ一棟の建物でも、現物分割をせざるをえない。

@各々独立に処分の対象となっている利用上の可分物としての仕切壁を境界として、現物分割した事例
  (鹿児島家庭裁判所昭和33年4月5日審判・家庭裁判所月報10巻4号33頁)。
A宅地のうち申立人の所有とされた建物の部分の敷地だけを申立人の所有とし、その他の部分は相手
  方の所有とするのが相当とした事例
  (鹿児島家庭裁判所昭和33年4月12日審判・家庭裁判所月報10巻4号37頁)。
B遺産の一部である二筆の土地を一部の共同相続人に分割取得させた原審判の分割方法が、建築基準
  法等による土地利用の基準及び共同相続人の等について配慮を欠いており、又、各相続人の取得部
  分の財産価値につき著しい不公平があると認めて、原審判を取り消し、事件を原審に差し戻した事例
  (福岡高等裁判所昭和63年7月13日審判・家庭裁判所月報40巻11号90頁)。

2 代償分割(価額賠償)
 債務負担による分割ともいう。

 遺産分割の方法としては最も一般的方法であり、数個の不動産を数人の相続人に分けた取得分の過不足も、この方法により調整される。
 一般に、現物分割に代えて代償分割をすることができるための要件としては、
  @現物分割が相当でない事案であること
  (大阪高等裁判所平成3年11月14日決定・家庭裁判所月報44巻7号77頁)
  A遺産を取得する相続人に代償金の支払能力があること
  (大阪高等裁判所平3年11月14日決定・家庭裁判所月報44巻7号77頁)
  B当事者間に代償分割の方法に異議のないこと及び遺産の評価額が共同相続人間で一致しているこ
  と (大阪高等裁判所昭和54年3月8日決定・家庭裁判所月報31巻10号71頁)
がある。

3 用益権の設定などの分割方法
 
 遺産分割の方法として、明文の規定はないけれども、以下は用益権を設定した事例である。

 @賃借権を設定させたもの
  ()主たる遺産が一筆の宅地とその地上にある居宅一棟及び附属物置のみの場合、遺産分割の方法
    として、当事者の一方に宅地、他方に建物というようにそれぞれ取得させ、建物所有を目的とする賃
    借権(賃貸 期間、地代を定める)を設定させた事例
    (富山家庭裁判所昭和42年1月27日審判・判例タイムズ222号254頁)。
  ()遺産たる建物の一部に被相続人の妻が被相続人の生前から引続き居住し、妻と感情的に対立し
    ている三男が該建物の他の部分で被相続人を引き継いで医業を営んでいる遺産分割案につき、妻
    の居住の必要性、三男の営業継続の必要性等諸般の事情を考慮の上、右建物を妻の単独取得と 
    し、その一部に三男のために賃借権を設定した事例
    (東京家庭裁判所昭和52年1月28日審判・家庭裁判所月報29巻12号62頁)。

 A土地の使用貸借権を設定させたもの
 
   遺産である土地を取得する者と同土地上の建物を取得する者とが異なる遺産分割について、原判決
  は 右建物取得者に敷地使用権をも取得させる趣旨であることが判文上十分窺えるが、その使用権原
  があきらかでないとして、原判決を変更し、主文において右建物の敷地につき期間20年間の使用貸借
  権を設定させた事例
  (高松高等裁判所昭和45年9月25日・判例タイムズ265号300頁)。

 B家屋の使用貸借権を設定させたもの
     他に転居すべき経済的能力のない配偶者に対し、生存中無償で使用させるのが相当であるとした
   事例(浦和家庭裁判所昭和41年1月20日審判・判例タイムズ207号203頁)。

 C明渡猶予期間を設けたもの
    遺産分割審判において、現に遺産たる建物に居住中の相手方が移住先を準備するに必要な期間に
   限り、右建物を取得する申立人に対し、そのうち一室を無償で使用するのが相当であるとした事例
   (福井家庭裁判所昭和40年8月17日審判・判例タイムズ194号191頁)。

4 共有とする分割

  民法第249条以下の共有とする方法である。
  共同相続人に、グループにより利害の対立が激しいが、そのグループ内では対立のないことがある。こ
 のような場合は、遺産をグループによって分割し、グループ内での共有とすることがある
 (神戸家庭裁判所尼崎支部昭和38年8月22日審判・判例タイムス163号209頁)。

5 換価分割
 遺産を他に売却し、その代金を分割する方法をいう。

 換価分割の方法としては、相続人による任意売却がある。
 分割の方法として、原則として現物分割あるいは債務負担の方法により、なるべく換価分割とくに競売は
避けるのが望ましいが、現物分割が不可能であるとか経済的価値を著しく減損するとか、相続人に資力を
乏しく、債務負担の方法によることができないときに、換価分割が行われる。

 判例も、競売による換価分割は、現物分割又は代償分割ができないときに行われるべきものだとするのがほとんどである
 (東京高等裁判所昭和54年10月19日決定・判例タイムズ401号150頁)
 (新潟家庭裁判所三条支部昭和41年12月8日審判・判例タイムス219号202頁)
 (大分家庭裁判所昭和50年7月18日審判・家庭裁判所月報28巻6号74頁)
 (岡山家庭裁判所昭和55年8月30日審判・家庭裁判所月報33巻8号80頁)
 (横浜家庭裁判所昭和63年9月26日審判・家庭裁判所月報41巻2号152頁)
 (広島高等裁判所平成3年9月30日決定・判例時報1434号81頁)
 (仙台高等裁判所平成5年7月21日決定・家庭裁判所月報46巻12号33頁)

(参考:判例家事審判法 家事審判研究会 編 新日本法規出版 )