A.
学説の多数説は、
「遺産の共同所有関係をもって共有と解し、債務が法律上当然に分割されるとすると、共同相続人は各自その相続分に従って独立した分割債務を負うことになり、それでは遺産債権者は相続開始前まで相続財産を引当てとした利益を失う危険があるので、この債権者の不利益を避けるには相続開始後も遺産に対して、共同相続人は不可分的に責任を負う」
(甲斐道太郎「連帯債務の共同相続」甲南論集7巻5号27頁1960年、遠藤浩「連帯債務の相続」柚木馨=谷口知平=加藤一郎編・判例演習「親族・相続法」164頁 有斐閣 1964年)とする。
これに対して判例は、相続財産の共同所有関係を共有であるとする立場(最高裁判所昭和30年5月31日判決・最高裁判所民事判例集9巻6号793頁)をとっており、また民法427条は、複数当事者の債務関係について分割債権債務関係を原則としているので、可分債務(相続債務)も、可分債権(相続財産)と同じく、相続開始とともに当然共同相続人間で分割され、各共同相続人は、その相続分に応じた割合で債務を負担するに至ると解している(最高裁判所昭和34年6月19日判決・最高裁判所民事判例集13巻6号757頁)。
したがって、相続債務については、各共同相続人は遺産分割の実際の割合に関係なく、それぞれの相続分に応じて返済すればたり、たとえ共同相続人の一人が相続財産を相続債務の返済するまで使ってしまい、返済が遅れたり、返済が出来なくなっても、ほかの共同相続人は、その者の相続債務の負担部分を返済する必要はない。
これは、フランス民法の考え方であるが、フランス民法は、このような相続債務者の救済として、財産分離の制度を設けている。
わが国においても、同様な規定が民法941条に存在するが、戦後の公表された判例は2件(東京高等裁判所昭和59年6月20日決定・家庭裁判所月報37巻4号45頁、新潟家庭裁判所新発田支部昭和41年4月18日審判・家庭裁判所月報18巻11号70頁)だけである。
民法第941条
1 相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から3箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後でも、同様である。2 家庭裁判所が前項の請求によって財産の分離を命じたときは、その請求をした者は、5日以内に、他の相続債権者及び受遺者に対し、財産分離の命令があったこと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。但し、その期間は、2箇月を下ることができない。」
(民法・判例)
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最高裁判所昭和30年5月31日第三小法廷判決・昭和28(オ)163 共有物分割請求
判示事項:
一 相続財産の共有の性質。
二 遺産分割の方法
要旨:
一 相続財産の共有は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではない。
二 遺産の分割に関しては、民法二五六条以下の規定が適用せられる。
参照・法条:
民法898条,民法256条,民法258条,民法906条,民法907条,旧民法1002条,家事審判法9条乙類10号,家事審判規則104条,家事審判規則107条
内容:
件名 共有物分割請求 (最高裁判所 昭和28(オ)163 第三小法廷・判決 棄却)
原審 東京高等裁判所
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人松岡末盛の上告理由第一、二点について。
相続財産の共有(民法八九八条、旧法一〇〇二条)は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解すべきである。相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するとした新法についての当裁判所の判例(昭和二七年(オ)一一一九号同二九年四月八日第一小法廷判決、集八巻八一九頁)及び旧法についての大審院の同趣旨の判例(大正九年一二月二二日判決、録二六輯二〇六二頁)は、いずれもこの解釈を前提とするものというべきである。それ故に、遺産の共有及び分割に関しては、共有に関する民法二五六条以下の規定が第一次的に適用せられ、遺産の分割は現物分割を原則とし、分割によつて著しくその価格を損する虞があるときは、その競売を命じて価格分割を行うことになるのであつて、民法九〇六条は、その場合にとるべき方針を明らかにしたものに外ならない。本件において、原審は、本件遺産は分割により著しく価格を損する虞があるとして一括競売を命じたのであるが、右判断は原判示理由によれば正当であるというべく、本件につき民法二五八条二項の適用はないとする所論は採用できない。そしてまた、原審は本件につき民法附則三二条、民法九〇六条を準用したことも原判文上明らかであるから、これを準用しない違法があると主張する所論も採用できない。
その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない(論旨第三点の理由ないことも原判決の判示したとおりである)。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 島 保
裁判官 河 村 又 介
裁判官 小 林 俊 三
裁判官 本 村 善 太 郎
最高裁判所昭和34年6月19日第二小法廷判決・昭和32(オ)477貸金請求
判示事項:
連帯債務の相続。
要旨:
連帯債務者の一人が死亡し、その相続人が数人ある場合に、相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解すべきである。
参照・法条:
民法427条,民法432条,民法898条,民法899条
内容:
件名 貸金請求 (最高裁判所 昭和32(オ)477 第二小法廷・判決 一部棄却・一部破棄差戻)
原審 広島高等裁判所
主 文
上告人Aの上告を棄却する。
右上告費用は同上告人の負担とする。
その余の上告人らの上告につき、原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人植木昇の上告理由について。
連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり、各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが、なお、可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるから(大審院昭和五年(ク)第一二三六号、同年一二月四日決定、民集九巻一一一八頁、最高裁昭和二七年(オ)第一一一九号、同二九年四月八日第一小法廷判決、民集八巻八一九頁参照)、連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である。本件において、原審は挙示の証拠により、被上告人の父Bは、昭和二六年一二月一日上告人らの先々代C、先代D及びDの妻である上告人Aを連帯債務者として金一八三、〇〇〇円を貸与したこと、甲二号証によれば、昭和二七年一二月三一日にも、同一当事者間に金九八、五〇〇円の消費貸借が成立した如くであるが、これは前記一八三、〇〇〇円に対する約定利息等を別途借入金としたものであるから、旧利息制限法の適用をうけ、一八三、〇〇〇円に対する昭和二六年一一月一日から昭和二七年一二月三一日まで年一割の割合による金一八、四五二円の範囲にかぎり、請求が許容されること(右のうち、昭和二六年一一月一日とあるのは、同年一二月一日の誤記であること明らかであり、また、原審の利息の計算にも誤りがあると認められる。)Dは昭和二九年三月二三日死亡し(Cの死亡したことも、原審において争のなかつたところであるが、原判決は、同人の債務を相続した者が何人であるかを認定していない。)、上告人E、F、G及び訴外Hの四名は、その子としてDの債務を相続したこと、債権者Bは、本件債権を被上告人に譲渡し対抗要件を具備したことを各認定ものである。右事実によれば、Cの債務の相続関係はこれを別として、上告人A及びDは被上告人に対し連帯債務を負担していたところ、Dは死亡し相続が開始したというのであるから、Dの債務の三分の一は上告人Aにおいて(但し、同人は元来全額につき連帯債務を負担しているのであるから、本件においては、この承継の結果を考慮するを要しない。)、その余の三分の二は、上告人E、F、G及びIにおいて各自四分の一すなわちDの債務の六分の一宛を承継し、かくしてAは全額につき、その余の上告人らは全額の六分の一につき、それぞれ連帯債務を負うにいたつたものである。従つて、被上告人に対しAは元金一八三、〇〇〇円及びこれに対する前記利息の合計額の支払義務があり、その他の上告人らは、右合計額の六分の一宛の支払義務があるものといわなければならない。しかるに、原審は、上告人らはいずれもその全額につき支払義務があるものとの見解の下に、第一審判決が上告人Aに対し金二八一、五〇〇円の三分の一、その他の上告人らに対し金二八一、五〇〇円の六分の一宛の支払を命じたのは、結局正当であるとして、上告人らの控訴を棄却したものである。それゆえ、上告人Aは、全額につき支払義務があるとする点において、当裁判所も原審と見解を同じうすることに帰し、その上告は結局理由がないが、その他の上告人らに関する部分については、原審は連帯債務の相続に関する解釈を誤つた結果、同上告人らに対し過大の金額の支払を命じたのであつて、同上告人らの上告は理由があるというべきである。よつて、上告人Aの上告は、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、これを棄却し、その他の上告人らの上告については、民訴四〇七条一項により、原判決を破棄し、これを広島高等裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 小 谷 勝 重
裁判官 藤 田 八 郎
裁判官 河 村 大 助
裁判官 奥 野 健 一
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