Q.相続分は譲渡できますか?


A.はい、相続分は譲渡できます。

@相続の共有の性質
 民法は、「自然人たる人(被相続人)の死亡により開始し、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務(積極財産及び消極財産である債務、つまり遺産)を承継する(民法第896条)。そして、相続人が数人いるときは、その相続財産は、その共有に属する(民法第898条)。」としている。この共有の性質について、最高裁判所は一貫して、相続財産の共有の性質は、民法第249条以下に規定する共有と同一であるとしている(
最高裁判所昭和30年5月31日判決・最高裁判所民事判例集9巻6号793頁)。つまり、遺産は、通常の共有とかわらず、遺産分割は、共有関係の解消手続きである。民法第256条第1項は以下のように規定している。「各共有者ハ何時ニテモ共有物ノ分割ヲ請求スルコトヲ得但5年ヲ超エサル期間内分割ヲ為ササル契約ヲ為スコトヲ妨ケス」
 したがって、相続分の譲渡は自由である。

A相続分の第三者への譲渡
 
民法は、第905条で「共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
と、相続人以外の者に対する相続分の譲渡を認めている。

 相続人以外の者に対する相続分の譲渡というなかには、相続開始前に共同相続人からその相続分の譲渡がされる場合と、相続開始があってから遺産分割前に共同相続人からその相続分の譲渡がされる場合とがある。

 前者の場合については、昭和61年7月15日大阪高等裁判所家庭審判官有志協議会協議結果・家庭裁判所月報39巻4号132頁で「相続開始前の相続権は、相続開始時に遺産を取得できる事実上の期待に過ぎず、譲渡の対象となる権利性に乏しい。」という意見で無効とするという意見が多数説であったが、公表されている判例は見当たらなかった。

 後者の場合については、相続開始後に共同相続人中の一人が相続人以外の第三者に対し相続分を譲渡したとき、その相続分の譲受人が遺産分割の申立てをすることができるかどうかが問題となる。
 この問題は、相続分の譲渡の性格をどのように解するかによる。

 学説は、相続分の譲渡をあたかも相続人の地位の譲渡と同一にみるのが通説的見解(我妻栄=唄孝一・親族法・相続法 <法律学体系コンメンタール> 113頁 日本評論社 1966年)である。
 判例も、「相続分の譲渡は、これによって共同相続人の一人として有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移り、同時に、譲受人は遺産の分割に関与することができるのみならず、必ず関与させなければならない地位を得るのである。」とする(
東京高等裁判所昭和28年9月4日決定・高等裁判所民事民事判例集6巻10号603頁)。

 つぎに、相続分の譲渡の方式についてであるが、相続分の譲渡については、特別の方式は不要であり、通常は、書面によってなされる。ただし、この書面に相続分の譲渡という用語が正確に使われていないときには、その意思表示の解釈が問題となる。
 
B相続人が遺産分割ではなく、その遺産につき共有物分割請求をできるか

 
相続人が遺産分割ではなく、その遺産につき共有物分割請求をできるかについて最高裁判所昭和62年9月4日判決・判例時報1251号101頁は、
「共同相続人間に協議が調わないとき又は協議することができないときは、家事審判法の定めるところに従い、家庭裁判所が審判によってこれを定めるべきものであり、通常裁判所が判決手続きで判定すべきでないと解するのが相当である。」と判示した。


C共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産の共有持分を第三者が譲り受けた場合の、その遺産の共有関係を解消するためにとるべき裁判手続き

 共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産の共有持分を第三者が譲り受けた場合の、その第三者がその遺産の共有関係を解消するためにとるべき裁判手続きについて、従来の裁判例は、共有物分割請求をなしうるかについて、肯定的に解する立場と否定的に解するものとに分かれていた。

これを肯定するもの:
@東京地方裁判所昭和41年10月26日判決・判例時報485号52頁
A大阪地方裁判所昭和41年2月28日判決・判例時報446号50頁
これを否定するもの:
@神戸地方裁判所昭和37年7月25日判決・下級審民事判例集13巻7号1563頁
A大阪高等裁判所昭和46年10月28日判決・下級審民事判例集22巻9=10号1104頁

に分かれていたが、最高裁判所は、
昭和50年11月7日判決・最高裁判所民事判例集29巻10号1525号で、
「共同相続人の1人から遺産を構成する特定不動産の共有持分を譲り受けた第三者がその共有関係を解消するためにとるべき裁判手続きは、共有物分割請求による」との判示した。

 ところで、共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産の共有持分を第三者が譲り受けた場合、共同相続人の一部の者がその他の共同相続人及び共有持分を譲り受けた第三者を相手として共有関係の解消を求める手続きについては、
@共有物分割請求によるものとする:
大阪高等裁判所昭和61年8月7日判決・高等裁判所民事判例集39巻3号54頁
A遺産分割審判の手続きとする:
東京地方裁判所昭和63年12月27日判決・判例タイムズ704号222頁
とに判断が分かれ、これについては、現在のところ最高裁判所の判断は示されていない。

民法・第五編・相続の条文はこちら (法庫
i-六法用語
遺産分割協議書書式の見本(司法書士の登記Q&A)  


最高裁判所昭和30年5月31日第三小法廷判決昭和28(オ)163 共有物分割請求

判示事項:
一 相続財産の共有の性質。
二 遺産分割の方法

要旨:
一 相続財産の共有は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではない。
二 遺産の分割に関しては、民法二五六条以下の規定が適用せられる。

参照・法条:
  民法898条,民法256条,民法258条,民法906条,民法907条,旧民法1002条,家事審判法9条乙類10号,家事審判規則104条,家事審判規則107条

内容:
 件名  共有物分割請求 (最高裁判所 昭和28(オ)163 第三小法廷・判決 棄却)
 原審  東京高等裁判所
               主    文


     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         
                                 理    由


 上告代理人松岡末盛の上告理由第一、二点について。
 
相続財産の共有(民法八九八条、旧法一〇〇二条)は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解すべきである。相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するとした新法についての当裁判所の判例(昭和二七年(オ)一一一九号同二九年四月八日第一小法廷判決、集八巻八一九頁)及び旧法についての大審院の同趣旨の判例(大正九年一二月二二日判決、録二六輯二〇六二頁)は、いずれもこの解釈を前提とするものというべきである。それ故に、遺産の共有及び分割に関しては、共有に関する民法二五六条以下の規定が第一次的に適用せられ、遺産の分割は現物分割を原則とし、分割によつて著しくその価格を損する虞があるときは、その競売を命じて価格分割を行うことになるのであつて、民法九〇六条は、その場合にとるべき方針を明らかにしたものに外ならない。本件において、原審は、本件遺産は分割により著しく価格を損する虞があるとして一括競売を命じたのであるが、右判断は原判示理由によれば正当であるというべく、本件につき民法二五八条二項の適用はないとする所論は採用できない。そしてまた、原審は本件につき民法附則三二条、民法九〇六条を準用したことも原判文上明らかであるから、これを準用しない違法があると主張する所論も採用できない。
 その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない(論旨第三点の理由ないことも原判決の判示したとおりである)。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎


東京高等裁判所昭和28年9月4日決定・東京高等裁判所昭和27ラ373 遺産分割の審判に対する抗告事件

事件番号  :昭和27ラ373
事件名   :遺産分割の審判に対する抗告事件
裁判年月日 :S28. 9. 4
裁判所名  :東京高裁
部     :第七民事部
結果    :変更
判示事項  :
一、 共同相続人の相続分の譲渡と第三者にたいする対抗要件
二、 相続人と祖先の祭祀



裁判要旨  :
一、 相続分の譲渡は、相続財産に属する個別的財産に関する権利の移転ではないから、これら個別的権利の変動について定められる対抗要件の諸規定には関係がない。
二、 遺産分割の審判にあたり、共同相続人中祖先の祭祀を主宰する者にたいして、祭祀料というような意味で特に多くを与えるべきでない。


         主    文
 原審判を左のとおり変更する。

一、 別紙目録記載の不動産及び動産を相手方(原審利害関係人)B、同Fの両名共有とし、これにたいして右相手方両名は連帯責任をもつて、抗告人(原審申立人)K、同J、同Lにたいしては各金十一万六千九百七十一円六十八銭を抗告人(原審申立人)H、同I、同M、同N、同O、同Pにたいしては各金二万三千三百九十四円三十三銭を支払うべき債務を負うものとする。

二、 相手方B、同Fは前項による債務の履行のため、連帯して、抗告人K、同J、同Lにたいしては、昭和二九年六月三〇日限り各金五万八千四百八十五円八十四銭を、昭和三〇年六月三〇日限り、各金五万八千四百八十五円八十四銭を、抗告人H、同I、同M、同N、同O、同Pにたいしては、昭和二九年六月三〇日限り各金一万一千六百九十七円十六銭を、昭和三〇年六月三〇日限り各金一万一千六百九十七円十七銭を支払うべし。

三、 本件手続費用は第一、二審ともこれを三分し、その一を相手方等の連帯負担とし、その余を抗告人等の連帯負担とする。
            理    由
 本件抗告理由は別紙抗告の理由書と題する書面記載のとおりであるから以下にこれにたいする判断をする。

抗告理由第一点について。
 本件記録を調査すると、原裁判所は昭和二七年七月一七日以来数回にわたり調停委員会による調停期日をひらき、当事者双方にたいし、申立の趣旨、実情及びこれにたする答弁の各陳述並びに証拠の提出援用及び認否をさせ、かつ調停を試みたが、当事者双方の意見が一致せず、調停を成立させるにいたらなかつたことをうかがうに十分である。したがつて原裁判所は本件につきなんら調停を試みることをしなかつたという本抗告理由は失当で採用しがたい。

抗告理由第二点及び第一二点について。
 記録中の、相手方A、利害関係人Bの各尋問調書並に乙第九号証の各記載を合せ考えると、相手方C、同A、同D、同Eは昭和二十四年十一月三十日相手方(原審利害関係人)B、同Fにたいして被相続人G相続財産にたいし譲渡人らが有する相続財産持分は貴殿両名に譲渡いたしますと記載した書面(乙第九号証)による意思表示をし、右B及びFがこれを承諾した事実を認めることができる。前記尋問調書の記載によると、相手方C外三名は、右B及びFに、本件被相続人Gのあとを相続させる目的をもつて前記書面による意思表示を為し、右B及びFもその趣旨をもつて承諾をしたものであることが認められること及び、前記合意の意味は相続財産中の負債は承継させないとか、資産部分のみを譲り渡すのだとみられるような別段の事情が認められないことに徴し、前記合意は前記の相手方C外三名がおのおの共同相続人の一人たる法律上の地位すなわち相続分を前記B及びFに譲り渡す旨の合意と解するのが相当である。
 かような、
相続分の譲渡は、これによつて共同相続人の一人として有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移り、同時に、譲受人(本件においては前記B同F)は遺産の分割に関与することができるのみならず、必ず関与させられなければならない地位を得るのである。原審が本件遺産分割手続に相手方(原審利害関係人)B、同Fを参加させて審理をしたのは正当である。
 <要旨第一>また、相手方A外三名と相手方B、Fとの間の行為は、前段説明のような意味の相続分の譲渡であ</要旨第一>つて、相続財産に属する個別的財産(個々の物または権利)に関する権利の移転ではないから、各種個別的権利(物権債権鉱業権その他工業所有権といわれる類)の変動について定められる対抗要件の諸規定の、なんらかかわるところではない。抗告人の所論はいずれも採用できない。

抗告理由第三点について。
 このような場合に相手方A外三名を手続から脱退させるべきだという明文の規定は、家事審判法、家事審判規則及びこれらによつて準用させるすべての法律規則中に存在せず、また、これらの解釈からもかような結論はでてこない。所論は抗告人独自の見解であつて採用に価しない。

抗告理由第四点ないし第九点について。
 右抗告理由は要するに原裁判所が証拠によつてなした事実の認定を攻撃するものであるが、記録にあらわれた諸証拠を考え合わせると、原審判認定のとおり認めるのが相当であるから抗告人の所論は採用しない。

抗告理由第一〇点について。
 本抗告理由は要するに原審判における遺産分割の方法が相当でないということを抗告人らの主張事実を根拠として強調するものであるが、原審判の理由説明によれば、右審判における遺産分割方法はなんら不当ではない(ただし、抗告理由第一一点について説示する点を除く)からこの点も採用の価値がない。

抗告理由第一一点について。
 成立に争のない甲第九、第二三なし第二五号証、原審証人Hの証言及び原審における抗告人I、同Jの各供述を綜合すると、抗告人らのうちには、利害関係人Fまたは同人夫妻に手切金あるいわ慰藉料名義で相当の金円を贈与する意思のあつたことは十分にうかがわれるところであるが、右証拠によると、抗告人らが本件審判の実情として右Fにたいし手切金六万円を贈与する意思あることを述べたのは、抗告人らの本件申立の趣旨が容れられ、本件遺産たる物件が抗告人Hの所有となり、Fが本件建物から退去するにいたることを前提条件とするものと解するのを相当とする。したがつて原審判のように相手方等及び利害関係人らの申立が容れられるような場合においては、抗告人らにはFにたいし、手切金あるいわ慰籍料贈与の意思のないことは明らかであるから、原裁判所がその意思あるもののように判断して抗告人らに分割すべき本件遺産から右贈与金六万円を控除したことは失当といわなければならない。

<要旨第二>また、相続人は、祖先の祭祀をいとなむ法律上の義務を負うものではなく、共同相続人のうちに祖先の祭祀</要旨第二>を主宰するものがある場合他の相続人がこれに協力すべき法律上の義務を負うものでもない。祖先の祭祀を行うかどうかは、各人の信仰ないし社会の風俗習慣道徳のかかわるところで、法律の出る幕ではないとするのが現行民法の精神であつて、ただ祖先の祭祀をする者がある場合には、その者が遺産中祭祀に関係ある物の所有権を承継する旨を定めているだけである(民法八九七条第一項)。したがつて、利害関係人両名が本件家屋内において、仏壇その他を整えて被相続人Gの祭祀を行つているからといつても、抗告人らにおいて利害関係人らの行う右祭祀に協力し、將来これを継続するに要する費用を分担すべき法律上の義務あるものではない。原審判が抗告人らに分割すべき本件遺産中から將来の祭祀料として金五万円を控除したことは不当といわなくてはならない。
 右のとおりとすれば、原審判において認めた抗告人らの相続分にたいする本件遺産の算定価額は金五十八万四千八百五十八円四十銭であるから、これを抗告人らの各相続分に応じて算出すると利害関係人両名に、抗告人K、同J、同Lにたいしては各金十一万六千九百七十一円六十八銭、抗告人H、同I、同M、同N、同O、同Pにたいしては各金二万三千三百九十四円三十三銭(厘以下切捨)を支払うべき債務を負担させ、利害関係人両名はこの責務について連帯責任を負うものとし、かつ主文掲記のとおりの期限に分割して支払うべきものとして、現物をもつてする分割に代えるを相当とすることは金額の点をのぞき原審判理由に説示するところによつて、おのずから明かであるからここにこれを引用する。

原審判主文二、には「申立人等は相手方等が利害関係人B同Fに対し別紙目録記載の不動産及び動産に対する二十五分の四の相続分を贈与したことを確認する」との宣言があるけれども、相続分譲渡のことは、利害関係人両名を本件遺産分割に関与させ、主文のような分割を定めるについての前提であつて、前提としてのみ判断が必要あるのであつて、すでに分割を定める手続に進んでいる以上、裁判の主文において宣言する利益も、必要もないものである。

また、原審判主文三、には「申立人等並に相手方等は利害関係人B、同Fに対し、別紙目録記載の不動産につき申立人K、同J、同Lは各二十五分〇五の、爾余の申立人等及び相手方等は各二十五分の一の割合を以て共同相続による所有権取得の登記を為した上これを申立人等は売買に因る、相手方等は贈与に因る所有権移転登記を為せ。若し申立人等及び相手方等が右各登記を為さないときは利害関係人B、同Fは申立人等及び相手方に代つて自ら右各登記手続を為すことがてきる」とある。

 しかしながら、遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずるのであり(民法第九〇九条)、分割によつて相続人の一人に属するにいたつた財産は、その相続人が直接に被相続人から承継したことになるのである。したがつて遺産に属する不動産について相続登記が、まだしてないかぎりは、協議によつたにせよ、審判によつたにせよ、分割のことがきまつたら、分割によつて不動産を取得した者が、被相続人名義の登記から直接に取得するものとして登記することができる。あえて共同相続による相続登記をして、さらに分割によつて単独の権利者となつた者へ権利移転の登記をするという手数をかける必要はない。このことは相続分を譲受けた第三者についても同様と解さなければならない。記録によると、本件遺産中の別紙目録不動産について相続登記はしてないと認められるから、原審判の前記主文のような宣言は必要がない。
 よつて、原審判は、これを変更するを相当と認め、家事審判規則第一九条第二項、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二八条第二九条、民事訴訟法第九三条によつて主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 藤江忠二郎 判事 原宸 判事 浅沼武)


最高裁判所昭和50年11月7日第二小法廷・判決 昭和47(オ)121 共有物分割請求

判示事項:
 共同相続人の一部から遺産を構成する特定不動産の共有持分権を譲り受けた第三者が共有関係解消のためにとるべき裁判手続

要旨:
  共同相続人の一部から遺産を構成する特定不動産の共有持分権を譲り受けた第三者が当該共有関係の解消のためにとるべき裁判手続は、遺産分割審判ではなく、共有物分割訴訟である。

参照・法条:民法258条1項,民法907条2項

内容:
件名 共有物分割請求 (最高裁判所 昭和47(オ)121 第二小法廷・判決 破棄差戻)
原審  S46.10.28 大阪高等裁判所

主    文

     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         
理    由

 上告人らの上告理由について
 上告人らの訴訟被承継人であるAが訴外Bからその有する本件土地建物の持分二分の一の贈与を受けてその共有権者になつたとし被上告人を相手として提起した共有権確認及び共有物分割訴訟につき、原判決は、本件土地建物は亡Cまたは亡Dの遺産であつて、被上告人と訴外Bが各二分の一の持分をもつて相続したものであるが、遺産の分割については当事者間においていまだ協議が調つていないことを確定したうえ、共有持分権の譲受人であつても遺産分割以前に遺産を構成する個々の財産につき民法二五八条に基づく共有物分割訴訟を提起することは許されないとして、Aの右訴を却下したものである。

 
しかし、共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係は、基本的には民法二四九条以下に規定する共有としての性質を有すると解するのが相当であつて(最高裁昭和二八年(オ)第一六三号同三〇年五月三一日第三小法廷判決・民集九巻六号七九三頁参照)、共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産について同人の有する共有持分権を譲り受けた第三者は、適法にその権利を取得することができ(最高裁昭和三五年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁参照)、他の共同相続人とともに右不動産を共同所有する関係にたつが、右共同所有関係が民法二四九条以下の共有としての性質を有するものであることはいうまでもない。そして、第三者が右共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続は、民法九〇七条に基づく遺産分割審判ではなく、民法二五八条に基づく共有物分割訴訟であると解するのが相当であるけだし、共同相続人の一人が特定不動産について有する共有持分権を第三者に譲渡した場合、当該譲渡部分は遺産分割の対象から逸出するものと解すべきであるから、第三者がその譲り受けた持分権に基づいてする分割手続を遺産分割審判としなければならないものではない。のみならず、遺産分割審判は、遺産全体の価値を総合的に把握し、これを共同相続人の具体的相続分に応じ民法九〇六条所定の基準に従つて分割することを目的とするものであるから、本来共同相続人という身分関係にある者または包括受遺者等相続人と同視しうる関係にある者の申立に基づき、これらの者を当事者とし、原則として遺産の全部について進められるべきものであるところ、第三者が共同所有関係の解消を求める手続を遺産分割審判とした場合には、第三者の権利保護のためには第三者にも遺産分割の申立権を与え、かつ、同人を当事者として手続に関与させることが必要となるが、共同相続人に対して全遺産を対象とし前叙の基準に従いつつこれを全体として合目的的に分割すべきであつて、その方法も多様であるのに対し、第三者に対しては当該不動産の物理的一部分を分与することを原則とすべきものである等、それぞれ分割の対象、基準及び方法を異にするから、これらはかならずしも同一手続によつて処理されることを必要とするものでも、またこれを適当とするものでもなく、さらに、第三者に対し右のような遺産分割審判手続上の地位を与えることは前叙遺産分割の本旨にそわず、同審判手続を複雑にし、共同相続人側に手続上の負担をかけることになるうえ、第三者に対しても、その取得した権利とはなんら関係のない他の遺産を含めた分割手続の全てに関与したうえでなければ分割を受けることができないという著しい負担をかけることがありうる。これに対して、共有物分割訴訟は対象物を当該不動産に限定するものであるから、第三者の分割目的を達成するために適切であるということができるうえ、当該不動産のうち共同相続人の一人が第三者に譲渡した持分部分を除いた残余持分部分は、なお遺産分割の対象とされるべきものであり、第三者が右持分権に基づいて当該不動産につき提起した共有物分割訴訟は、ひつきよう、当該不動産を第三者に対する分与部分と持分譲渡人を除いた他の共同相続人に対する分与部分とに分割することを目的とするものであつて、右分割判決によつて共同相続人に分与された部分は、なお共同相続人間の遺産分割の対象になるものと解すべきであるから、右分割判決が共同相続人の有する遺産分割上の権利を害することはないということができる。このような両手続の目的、性質等を対比し、かつ、第三者と共同相続人の利益の調和をはかるとの見地からすれば、本件分割手続としては共有物分割訴訟をもつて相当とすべきである。
 したがつて、これに反する原審の判断には法令解釈を誤つた違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 なお、共有権確認の訴について、原審はなんら理由を開示することなく該訴を却下しているが、共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産についての共有持分権を譲り受けたと主張するAが右譲受を争う被上告人を相手として提起した共有権確認の訴が当然に不適法になる理由はないから、原審の右判断には法令の解釈を誤つたか理由不備の違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 よつて、原判決を破棄し、本件はなお審理をつくす必要があるから、これを原審に差し戻すべく、民訴法四〇七条一項に従い裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
    最高裁判所第二小法廷

    
裁判長裁判官    大      喜 一 郎
       裁判官    岡   原   昌   男
       裁判官    吉   田       豊
       裁判官    本   林       讓

大阪高等裁判所昭和61年8月7日判決・高裁 昭和60ネ1413 共有物分割請求事件


事件番号  :昭和60ネ1413
事件名   :共有物分割請求事件
裁判年月日 :S61. 8. 7
裁判所名  :大阪高裁
部     :第一一民事部
結果    :棄却・上告

判示事項  :
遺産を構成する特定不動産について共同相続人の一部の者が第三者に共有持分権を譲渡した場合と他の相続人の一部の者による共有物分割の訴えの適否


裁判要旨  :
遺産を構成する特定不動産について共同相続人の一部の者が第三者に共有持分権を譲渡した場合には、他の相続人の一部の者は、遺産分割審判の申立てに先立つて、右第三者及び相続人を被告として共有物分割の訴えを提起することができる。


裁判集登載巻号・頁:39-3-54K


      主    文
 一 本件各控訴を棄却する。
 二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
         事    実
 一 当事者の求めた裁判
 (控訴人A、同有限会社ロイヤル商事)
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人の各請求を棄却する。
 3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
 (被控訴人)
 主文と同旨。
 二 当事者主張と証拠関係
 次に付加するほかは原判決事実摘示欄記載と同じである(ただし、原判決三枚目裹四行目の「予備的」を「価格弁償の方法によりえないときは」と改める。)から、ここにこれを引用する。
 (控訴人A)
 原判決別紙物件目録(一)記載の土地(以下、「目録(一)記載の土地」という。他の土地・建物についても同様の略称を用いる。)については現物分割が可能である。
         理    由
 請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。
 目録(一)、(二)記載の各土地と目録(四)記載の建物の共有者は現在控訴人ら三名と被控訴人の四名であるが、ここに至つた経過は次に認定のとおりである。
 成立に争いのない甲第一、二号証、第四号証および弁論の全趣旨によれば、目録(一)、(二)記載の各土地は被控訴人の妻(亡)Bの所有であり、同(四)記載の建物は被控訴人とBの共有(持分各二分の一)であつたこと、昭和五六年二月一三日Bの死亡に伴い法定相続分にしたがい右各土地につき相続人である被控訴人が二四分の一八、控訴人C、(亡)D、E、F、G、Hが各二四分の一の持分割合で共同相続し、昭和五六年八月一日Hは自己の持分を控訴人有限会社ロイヤル商事に売渡し、同月二日E、F、Gは各人の持分を控訴人Aに売渡し、Dの死亡(昭和五九年八月八日)により同人の持分を控訴人Aが相続により取得したこと、目録(四)記載の建物については同じく相続によりBの共有持分二分の一につき被控訴人が四八分の一八(同人は元来同建物の持分二分の一の共有者である。)、その他の前記相続人六名が各四八分の一の持分割合を取得し、右八月一日Hは自己の持分を控訴人有限会社ロイヤル商事に売渡し、同月二日Eら三名は各人の持分を控訴人Aに売渡し、Dの持分につき前同様に控訴人Aが相続により取得したことが認められる。
 二 目録(一)、(二)記載の各土地および同(四)記載の建物についてそれぞれ被控訴人と控訴人らとの間で共有物分割の協議が整わないことは弁論の全趣旨により明らかである。
 <要旨>被控訴人は、共有関係の解消を求めて、目録(一)、(二)記載の各土地については相続による共有持分二四分の</要旨>一八に基づき、同(四)記載の建物については元来有していた共有持分四八分の二四と相続による共有持分四八分の一八とを合せた共有持分四八分の四二に基づき第三者、他の相続人から共有持分を買受けたものなどの控訴人らに対し共有物の分割を求めるものである。こうした共有者間においては、相続人が、家庭裁判所に対して家事審判法九条一項乙類一〇号の遺産分割審判を申し立てる方途によらず、先ず民法二五八条による共有物分割請求訴訟を選択して地方裁判所にこれを提起しうると解すべきである。そして右訴訟の確定後、相続人は遺産全体について右分割の結果を踏まえて家庭裁判所に遺産分割の審判を申し立て具体的相続分に応じた遺産の分割を受けて終局的に相続による共有関係の解消をえられることになる。
 共有物分割請求訴訟においては現物分割を原則とし、それが不能か又は分割により著しく価格を損する虞れあるときは共有物の競売を命じてその売得金を共有持分割合に応じて分割すべきであり(民法二五八条二項)、価格弁償による分割の方法は許されないと解すべきである。そうであれば、価格弁償を求める被控訴人の主張は採用するに由ないところである。
 三 次に、現物分割の可否を検討する。
 1 目録(一)記載の土地上には被控訴人が所有し同人とその母が居住する目録(三)記載の建物があり、目録(二)記載の土地上には同(四)記載の建物があることは当事者間に争いがない。
 2 目録(一)、(二)記載の各土地上にはそれぞれ目録(三)、(四)記載の各建物がほぼ全面的に建てられてあり、かつ、いずれも区分所有の認められるような建物でないことは原審被控訴人本人尋問の結果と弁論の全趣旨により認められる。
 3 前掲甲第一、二号証、第四号証によれば、目録(一)記載の土地の面積は七〇・〇八平方メートル、同(二)記載の土地のそれは六六・一一平方メートル、同地上にある目録(四)記載の建物の床面積は延べ四六・一一平方メートルであると認められる。これらを前記認定の控訴人Aの共有持分二四分の四(建物については四八分の四)、他の控訴人らの各二四分の一(建物については四八分の一)の持分割合に応じて現物分割をすると、右(一)の土地については一一・六八平方メートルと二・九二平方メートル、(二)の土地については一一・〇一平方メートルと二・七五平方メートル、(四)の建物については三・八四平方メートルと〇・九六平方メートルとなる。
 4 以上の事実関係によれば、現物分割は不能、少なくともその価格を著しく損するものというべきである。仮に目録(二)記載の土地と同(四)記載の建物を一体として現物分割を試みても右理は同様である。さらに控訴人ら主張のように目録(一)記載の土地の隣接地が控訴人らの所有であるとしても、右結論を左右するものではない。
 5 したがつて、目録(一)、(二)記載の各土地および同(四)記載の建物についてこれを各競売に付しその売得金から競売費用を控除した金額を被控訴人、控訴人らの共有持分割合に応じて配分するのが正当である。
 四 よつて、右と結論を同じくする原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し(なお、共有物分割の訴えにおいては当事者が単に共有物の分割を求める旨を申し立てれば足り、分割の方法を具体的に指定することは必要でなく、被控訴人が原審において分割方法に応じて主位的・予備的請求として申し立てる点は一個の訴えの請求原因の問題にすぎない。したがつて、原判決が主文第一項において競売の方法による分割を命じている以上、主文第二項(原告の主位的請求棄却)は不要であるが、本判決主文においてこの部分を取消すまでの必要は認めない。)、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 石井玄 裁判官 大久保敏雄 裁判官 稲田龍樹)